映画館は私の隠れ家だった
映画「ニューシネマパラダイス」のように近所にあって毎日通ったというわけではない。
個人的に映画館のスタッフと仲良くしていたわけでもない。
家の近所には映画館がなかった。
バスに乗って駅へ行き、そこから電車に乗って終点のターミナル駅まで出ると、映画館はたくさんあった。
シネコンなどなく、1館で1作品ないしは2作品の上映だった。
当時中学生だった私は、観にいく作品と時間を新聞で確認して出かけた。
潤沢な小遣いが与えられていたわけではない。
多くても月に1度の楽しみだった。
家に居たくないとき、ひとりで過ごしたいとき、最も長時間家を出られる方法として選んだのが映画だった。
家から遠く離れたターミナル駅には、家の最寄り駅とは違い、近所のおじさん、おばさんの目もない。知った顔を見ることもない。
そうした開放感を味わいつつ、映画を観た。
映画を観る前はこれから観る映画への期待を持てる。
映画を観ている間は映画の中にいられる。
映画を観たあとは映画の余韻に浸れる。
往復で約2時間、映画本編で約2時間、計4時間、その映画を味わった。至福の時間だった。
自分にとって、映画館へ行くことは心を平穏にする方法のひとつ。