とんかつ屋
都心郊外の「ニュータウン」と呼ばれる地区で幼少期を過ごした。
父はサラリーマン、母は専業主婦だった。
我が家は家でもできることにお金を使わない主義だったようで、あまり外食はしなかった。
あくまでも想像だが、私が小さい頃は貧乏というほどではないが、金銭的な余裕がなかったこともある。
月に1回ほど、ファミリーレストランへ家族で行った。
それはそれで楽しみではあったが、普段家でする食事を外でするだけのことだった。
家の近くにマクドナルドがなかったわけでもないのに、中学生になって初めてマクドナルドへ行ったほど、軽食も含めて外食はしなかった。
あるとき、母が何かの用事で出かけ、父と夕食を食べることになった。
正確には覚えていないが、小学校3,4年生くらいだったと思う。
父はとんかつ屋へ私を連れて行った。
家でもとんかつを食べたことはあるが、とんかつ屋のとんかつは全くの別物で、肉も柔らかく、衣はカリっとムラなくキツネ色に揚がっており、当然焦げてなどいなかった。
この頃、私は家ではあまり量を食べず、給食を残すことはないがどちらかといえば小食だった。
祖父母の家に親戚が集まる場所などではよく食べ、両親、特に母親を悩ませていたようだ。
今考えると、あまり食事や食べ物に執着がなかったのだと思う。
それを変えたのが、この "とんかつ" だった。
美味しくて夢中で食べていた私を見て、父は満足気だったように思う。
「お母さんには内緒だぞ」とも言っていた。
今はとんかつ屋に行く機会は少なくなってしまったが、行くときは必ずロースカツを食べる。
そして、初めて食べたとんかつを思い出すのだ。