ほんのひとさじ

日々の雑記

チップスター

後楽園球場へ父と行った。社会人野球を見るためだ。試合内容は覚えていない。
私はまだ小学校1年生くらいだったと思う。

おそらく入場無料でそこそこ時間が潰せた場所でもあったのだろう。
普段行かない場所に連れてゆかれることを、私は単純に喜んだ。
そのうえ、「お母さんには内緒だぞ」と、父は私に球場でお菓子を買ってくれた。
母はそういった場所での買い物を嫌っていた。
いま親の立場になって考えると、そういった場所で買う食べ物や飲み物は高いのだ。
できればそこではお金を使わずに済ませたい、そう思う。

買ってもらったのは、チップスター
普段でもあまり買ってもらえる類のお菓子ではなかった。
そのうえ、当時は小食で食事をあまり食べなかったので、おやつはあってもほんの少量だった。

私は大事に大事に、少しずつ食べた。
筒は座席の下に置いた。

気づいたのは電車を乗り継いで最寄り駅まで帰ったときだった。
あの、大事に食べてまだ残っていたチップスターがない。球場へ忘れてきてしまった。

私は、泣いた。
「まだ残っているのに忘れてきちゃった。ねえ、かわいそうだよ。ひとりで待ってるよ。一緒に帰ろうと思ってたのに。迎えに行こうよ」
私はそう言って、父を困らせた。

「そうは言ってもね、もうお掃除のひとに捨てられてしまっているよ」
父はそう説明した。

「どうして?まだあったんだよ。それなのに捨てられちゃうなんて」
私は食べてもらえたはずのチップスターの残りが捨てられてしまったことが悲しくて、また泣いた。
いつまでも、いつまでも、泣いていた。

今でも、チップスターを見ると、このときのことを思い出す。
座席の下にひとりぼっちで残されたチップスターを。